2025/10/17
PBX/CTI
マネジメント
コールセンターシステム導入時のRFP作成ガイド ─ 初心者でも迷わない手順とフォーマット例

コールセンターシステムの導入は、顧客対応品質の向上・業務効率化・コスト削減に直結する重要な経営テーマです。
しかし、クラウドPBXやCRMなど多様なシステムの中から自社に最適なものを選ぶのは簡単ではありません。
そこで役立つのが「RFP(Request for Proposal:提案依頼書)」です。
RFPは、自社の課題や要件をベンダーに正確に伝え、最適な提案を引き出すための設計図のような存在です。
この記事は、コールセンターシステム導入に向けてRFP(提案依頼書)を作成したい方に向けた実践的なガイドです。
コールセンターの運営責任者やITツール選定担当者の方が、迷わずRFPを作成できるよう構成しています。コールセンター業務の効率化・品質向上を実現する第一歩として、ぜひご活用ください!
目次
RFPとは何か
RFP(Request for Proposal)は「提案依頼書」と訳され、企業がITシステムの導入やリプレース、業務委託を行う際に、発注先候補となるベンダーに対して、自社の課題や目的、必要な要件を提示し、具体的な提案を依頼する文書です。システム導入の目的、概要、要件、制約条件などが記述され、ベンダーはこれに基づいて製品提案や見積もり、スケジュール案などを提出します。
RFI・RFQとの違い
RFPと似た言葉にRFI(Request for Information:情報提供依頼書)とRFQ(Request for Quotation:見積依頼書)があります。これら3つの文書は、情報収集からベンダー選定、契約に至るまでのプロセスで異なる役割を担います。
RFI、RFP、RFQは「RFI → RFP → RFQ」の順に進むのが一般的な流れであり、この段階的なプロセスを踏むことで、情報の不確実性を減らし、要件の精度を高めることができます。
RFP作成がもたらすメリットと課題
RFPを作成することには多くのメリットがありますが、同時に課題も存在します。
- 要件の正確な伝達:社内課題や目的を明文化し、ベンダーに正確に共有できる。
- 提案の質向上 :明確なRFPは、より的確な提案を引き出す。
- 公平な比較 :複数の提案を同条件で比較・評価できる。
- トラブル防止 :納期・費用・範囲が明記されるため、認識の齟齬を防げる。
- 課題の整理 :RFP作成過程で、自社の業務課題や改善点が明確になる。
主なメリット
- 作成には時間と労力がかかる。
- IT知識が不足していると、要件の整理が難しい場合もある。
- 作成を急ぐと、スケジュール全体に影響する可能性がある。
課題
これらの課題を理解した上で、効率的かつ効果的なRFP作成を進めることが重要です。
コールセンターシステムのRFP作成前に準備しておくべきポイント
RFPをいきなり書き始めるのではなく、まずは自社の現状を把握し、システム導入によって何を達成したいのかを明確にすることが成功の鍵となります。
1.現状分析(As Is)の分析
現在のコールセンター業務フロー 使用しているシステム構成 具体的な課題(例:応答率の低下、情報共有不足、オペレーター教育の属人化) 課題の背景要因(体制、ツール、プロセス)
2. 目指すべき姿(To Be)の明確化
システム導入後にどのような状態を実現したいのか、具体的な目標(ゴール)を設定します。
例:
顧客満足度(NPS)を10%向上 平均処理時間(AHT)を20秒短縮 運用コストを15%削減
目標は、企業の事業戦略やコールセンターのあるべき姿と連携している必要があります。
3. 関係者との連携
現状分析とゴールの明確化ができたら、RFPに記載するために必要な情報を整理します。
コールセンター責任者、システム担当、現場SVなどから意見を収集。 部門別ヒアリングを行い、「課題」「理想像」「改善ポイント」を整理する。
4. 要件の優先順位付け
すべてを盛り込まず、「Must(必須)」「Want(望ましい)」に分類する。 限られた予算・期間で最も効果の高い要件を優先。
RFPの基本構成と記載すべき主要項目
RFPは、ベンダーに自社の意図を正確に伝え、質の高い提案を引き出すための重要な文書です。
明確で分かりやすい構成を心がけましょう。
概要:プロジェクト背景・目的・ゴール
RFPの冒頭では、プロジェクトの全体像をベンダーに理解してもらうための概要を記載します。
- 本書の目的
- プロジェクトの背景
- プロジェクトの目的・ゴール
- プロジェクトの範囲
- 会社情報
- 現行のシステム構成・機器情報
本RFPが何のために作成されたのか簡潔に説明。(例:コールセンターシステムの新規導入に向けた提案依頼)
コールセンターシステム導入に至った経営的・業務的な背景、現状抱えている課題(As Is)を具体的に記述。
システム導入によって最終的に達成したい目標(To Be)を明確に
品質(顧客満足度、応対品質)、費用(コスト削減)、納期(本稼働時期)など、可能な限り定量的な目標を設定。
提案を依頼する範囲を明確に。(例:システム開発のみ、IT機器の購入まで、運用保守も含むなど)
自社の基本情報(業種、取扱商品、年商、従業員数、販売形態など)、組織図、システム利用者情報などを記載し、ベンダーに自社の規模感を伝える。
現在使用しているコールセンターシステムの構成図、システムパッケージ名、データ連携方法、PCやサーバーなどの機器情報を記載。
これにより、ベンダーは既存環境との連携や移行について考慮した提案が可能に。
業務要件定義・システム要件
コールセンターシステムに求める具体的な機能や性能を詳細に記述します。
- 業務要件:
- 機能要件:
- 非機能要件:
・現在の業務フローと、システム導入によって改善したい業務プロセスを明確に。
・具体的な業務内容、シフト体制、想定呼量、研修スケジュールなどを記載。
・マネージャー、SV、LDR、オペレーターごとに必要な職務要件やスキルを定義。
コールセンターシステムに実装してほしい機能を具体的に記述。
例)
AIボイスボット、CRM連携、CTI機能、IVR、通話録音、チャットサポート、
オムニチャネル対応、レポーティング機能など。
必須機能と希望機能に優先順位をつけ、明確に区別して記載。
システムの機能以外の要件(品質要件)を定義。
例)
ユーザビリティ:オペレーターの操作性、インターフェースの使いやすさ。
性能 :応答速度(レスポンス時間)、同時アクセス人数、処理能力。
拡張性 :将来的な機能追加やユーザー数増加への対応力、クラウド対応。
セキュリティ :プライバシーマーク、ISMS認証取得状況、データ保護対策。
保守サービス :システム障害時の対応体制、窓口の受付時間、SLA(Service Level Agreement)の内容。
体制・スケジュール・評価基準
プロジェクトの進め方やベンダー選定の基準を明確にします。
- プロジェクト体制:
- スケジュール:
- 評価基準:
プロジェクトに参加する自社のメンバーとその役割を明確に。
ベンダーに求めるプロジェクト体制、プロジェクトマネージャーの経験やスキルなども記載。
ベンダー選定からシステム構築、本稼働までの全体スケジュール(提案書提出期限、プレゼン日程、選考結果連絡日、契約日、導入開始日、本稼働日など)を具体的に記載。
ベンダー選定時に何を重視するのか、具体的な評価ポイント(例:要件への適合度、提案内容の具体性、費用対効果、ベンダーの実績・信頼性、プロジェクト管理能力、サポート体制など)と、評価方法(点数付け、重みづけなど)を明確に。
契約・セキュリティ・制約事項
契約に関する条件やセキュリティ要件、システム上の制約事項を記載します。
契約期間、支払い条件、著作権、機密保持、検収条件など、法務に関する取り決めを明示。
顧客情報を取り扱うコールセンターシステムでは特に重要です。プライバシーマークやISMS認証の取得状況、データ保護対策、情報漏洩対策など、具体的なセキュリティ基準を明示。
現時点で判明しているシステム上の制約事項(例:登録可能なデータ数、同時アクセス数の上限、既存システムとの連携における技術的制約など)を記載。
参考フォーマット例
-
1. 概要
・本書の目的
・プロジェクトの背景
・現在抱えている主な課題
・プロジェクトの目的
・プロジェクトのゴール(品質、費用、納期)
・プロジェクトの範囲
・会社情報(基本情報、組織図、システム利用者情報など)
・現行のシステム構成
・現行機器の構成
2. 提案依頼内容
・ベンダーの会社・組織情報
・提案システム概要
・システム構成
・プロジェクトスケジュール
・プロジェクト体制図(PMの経歴含む)
・プロジェクトマネジメント方法
・会議体一覧
・サポート体制・運用体制・SLA
・納品物一覧
・ドキュメントサンプル
・概算費用(初期費用、ランニング費用、内訳)
・制約事項
・導入事例
・契約内容
3. 選考の進め方
・選考スケジュール(提案書の提出期限、プレゼン日程、選考結果連絡日など)
・提案書提出先
・評価方針
RFP作成の手順
RFP作成は、システム導入プロジェクトの上流工程に位置する重要なプロセスです。計画的に進めることが成功に繋がります。
Step1:プロジェクトチームの立ち上げ
Step2:現状整理と目的設定
Step3:情報収集(RFIの活用)
Step4:要件定義と優先順位
Step5:RFPの作成
例:「高速な応答」ではなく「レスポンス3秒以内」など定量化。
Step6:レビューと承認
チーム内でレビューし、経営層の承認を得て正式文書として確定。
RFP作成時に気をつけたい注意点とトラブル防止策
RFPはシステム導入の成否を左右する重要な文書であるため、作成時にはいくつかの注意点があります。
明確な要件定義と情報の具体化
「使いやすい」など抽象的な表現ではなく、具体的な数値を記載し、As IsとTo Beを対比して説明します。
不要な機能やオーバースペック要求はコストを押し上げ、必要最低限+将来拡張性を意識します。
提出後の要件変更は、スケジュールや見積に影響するため原則禁止です。
セキュリティ・SLA・サポート要件の記載
コールセンターシステムは機密性の高い顧客情報を扱うため、セキュリティ要件は特に重要です。
ベンダーから良い提案を引き出すコツ
RFP提出後のプロセスとベンダー選定
RFPを提出し、ベンダーからの提案を受け取った後も、適切な評価と選定プロセスを踏むことがシステム導入の成功には不可欠です。
提案書の評価
事前にRFPで明記した評価基準(機能要件への適合度、非機能要件への対応、費用、スケジュール、ベンダーの実績・信頼性、提案の具体性など)に基づいて、各ベンダーの提案書を客観的に評価します。
評価は複数人で行い、点数付けや重みづけを行うことで、恣意性を排除し、公平な評価結果を導き出します。例えば、各評価項目に〇△×の3段階評価を設定し、それぞれに点数を割り振る(〇=5点、△=1点、×=0点)ことで、評価結果の差を明確にできます。
単に合計点が高いベンダーを選ぶだけでなく、自社が特に重視する評価視点(例:機能性、コスト、サポート体制など)の得点や、提案内容の質、ベンダーの信頼性なども総合的に考慮して検討します。
プレゼンと質疑応答
ベンダーに提案内容を直接説明してもらうことで、提案書では伝わりにくいニュアンスや、ベンダーの熱意、プロジェクトマネージャー候補の人柄や力量などを確認できます。
実際の運用シミュレーションや、ピーク時の対応方法など、具体的なケーススタディを提示してもらいましょう。
提案書を読み込んだ上で疑問に感じた点や、さらに深く知りたい点について積極的に質問します。
ベンダーの回答の具体性や迅速性も評価のポイントとなります。
公平性を保つため、全てのベンダーからの質問とそれに対する回答は、他のベンダーにも共有することが望ましいです。
ベンダー選定から契約までの流れ
- 評価結果をもとに最終候補を絞る。
- 契約条件や費用を交渉。
- 社内承認を経て正式契約。
- システム導入プロジェクトを開始。
まとめ
RFPは、コールセンターシステム導入を成功させる「設計図」です。
現状把握・目的設定・要件整理・公平な比較という流れを踏むことで、最適なシステムを選定できます。
最初は手間がかかりますが、しっかりとしたRFPを作ることで、導入後の満足度とROIが大きく変わります。
本記事が、貴社のコールセンターシステム導入プロジェクト成功の一助となれば幸いです。